定量、定性は目的に応じて使い分けるべき
まず定量のインプットから、課題がありそうな個所とボリュームをざっくり把握し、定性のインプットから、課題の原因を特定して改善方針を考えるというのがよくある使い分けです。
では、なぜそのように使い分ける必要があるのでしょうか?
影響要因はストーリーでしか洗い出せない
多くの場合、 ユーザの好き/嫌い、買う/買わないという結果はその瞬間だけで発生したものではなく、そこに至るユーザごとの連続して積み重ねられた体験のストーリーが背景にあります。最終的な結果に至るまでには様々な要因が影響することが多いのですが、主観的な要因も含め洗い出すにはユーザのストーリーを捉えるしかありません。
ストーリーで捉えないと真の原因には到達できませんが、定量データにはこのインプットが含まれていないため、別途定性のインプットが必要となります。
定性調査でも、グループインタビューの場合は、複数のユーザの断片的な体験が混在してしまうため、ユーザごとのストーリーで捉えるためのインプットではありません。
因果関係が分からなければ優先度はつけれない
影響要因を洗い出しても、結果との因果関係が把握できなければ、影響の大きさも再現性もわからいため、対応の優先度もつけることができません。よく「カスタマージャーニー作ったけれど使ってない」という声をお聞きしますが、多くの場合、因果関係の分析が含まれていないのではないかと考えられます。それでは 単に出来事を羅列しただけのものでしかありません。
因果関係を捉えるには「ナゼ」を重ねる
ユーザは自分の行動の理由や心の動きを全て明確に意識、言語化している訳ではありません。ユーザのストーリーをヒアリングしつつ、意識、言語化されていない場合はその場で「ナゼ?」「ナゼ?」を重ねて因果関係を洗い出します。
定量アンケートでは事前に用意した質問の回答しかえられず、フリーアンサーの項目でも、ユーザの反応を見ながら「ナゼ」を重ねることができないため、インプットとして十分ではありません。
因果関係で捉えてない施策は逆効果になる事も
自動車保険の例ですが「事故後の対応がすべて終わった後に送付されてきた手紙の中に折り鶴が入っていて感動した」というユーザの声がありました。「よし、じゃあみんなでやるぞ!」と対応してしまいたくなるところですが、実は慎重に判断する必要があります。このユーザに感動の理由を聞いてみると、
「事故発生時の初期対応も迅速で親切で事故処理の担当者も丁寧で完璧にやってくれて大満足でした。そこまで完璧にやってくれた上に、気遣いまでしてくれたことに感動したんです。」との事。
つまりこの折り鶴が感動を与えるには前提条件があり、それは「やるべき仕事をまず期待以上にこなす事」でした。ではもし「期待以下の仕事だった」と感じている方の元に折り鶴入りの手紙が届いたらどう思うでしょうか? 感動どころか「その前にやるべき仕事やってくれよ」と逆効果になりかねません。
有効な施策に向けた進め方
原因や因果関係が分かっても、それがイコール有効な施策に直結する訳ではありません。何が有効かを判断するのはユーザだからです。ただ、ユーザは「不満」は言語化できますが、「ではどうありたいか」という理想形については明確なイメージがないため答えられません。 そのため、プロトタイプを作成してユーザの反応を見る、という方法が一般的ですが、 具体的なプロダクトでない場合は口頭のインタビューでを得ます。
「仮に~」への反応と理由
自分の潜在ニーズや理想形を言語化できていなくても「もしこんなサービスされたらどうですか?」と聞かれればユーザはその「良し悪し」について何らかの反応をすることができます。さらに、その反応の理由について「ナゼ?」を重ねていく事で、ユーザの根底にある意思決定プロセス、判断基準が見えてきます。 具体的な形のない体験設計などの場合、このような「仮に~」への反応を施策検討のインプットとします。
分析に必要なインプットは何か、から考える
人はどうしても手元にあるインプットから、何らかの答えを得ようとしがちですが、目的や用途に合致したインプットでなければどれだけ分析しても欲しい答えには到達できません。また、改善活動の優先順位もつける事ができません。
定量データ、定性データをどう分析するか、という考え方ではなく、分析したい目的に必要なインプットを収集する、というアプローチが必要となります。