自社は、NPS向上が売上に直結するタイプか?
NPS向上が売り上げなどの事業成長に直結するか、は企業によって異なります。
売上に直結するタイプとしては、CXの代表的な例でとして挙げられるリッツカールトンをイメージください。これらの企業に対し顧客は「体験の質」を提供価値として重視しており、対価を払う価値を感じています。こういったケースではNPS改善活動に伴う顧客体験の向上は競争力向上とイコールであり、結果的に売上にも影響します。この場合NPSの数値向上だけを見据えて活動しても事業成長が望めます。ただしこのタイプの企業は全体からすると少数でしょう。
実際には大多数の企業は直結しない
大多数の企業は体験そのものを商品としている訳でもなくユーザも期待していません。普段の消費生活でユーザが主に気にしているのは料金やスペックなどであり、企業に対する態度(推奨度)と目の前の購買行動が別腹となっています。この場合NPS向上と売り上げが無条件で結びつく訳ではありません。NPS向上だけで活動の優先度づけを行うと、売上や事業成長の観点からは効率的でない活動となってしまいます。
優先的に狙うべき箇所
NPSと売上が直結しないタイプの企業でも、多くの場合は売上とNPS双方に影響する課題を抱えています。例えばデルタ航空は、航空機の顧客体験の主な不満であり、コスト増大や遺失利益を発生さえていた「遅延・欠航」の解消に取り組むことで顧客体験とビジネス成果の向上を達成しました。NPS単独で考えると活動の優先順位がつけにくくても、顧客体験とビジネス成果の両方に影響する課題を特定する事ができれば明確な優先順位をつける事ができます。CX活動は結果が出るまでに長い時間がかかりますし、複数の部署の協力が必要となります。まずはNPSと売り上げの両方に影響する、誰が見ても「それは大事だ」と思える箇所から手を付けていく、というのが「直結しないタイプ」の企業が取るべき進め方です。
そんな都合のよい改善点が本当にあるのか?
これまで多くの日本を代表する企業様でCX活動をご支援してきた経験からすると、どの企業でもほぼ確実にあります。どの企業でも組織構造、業務プロセス、評価システムなど の既存の枠組みから外れる課題は見過ごされ、放置されがちです。特に組織や業務プロセスをまたぐ課題は責任の所在が不明になりやすく、みんな気付いているものの能動的に改善に動きません。こうして売上、NPSの両面で改善効果の高い課題が手付かずで残っているケースが多くみられます。例えば、 担当営業の変更後後任に放置されたり、コールセンターでたらい回しにされたりなどです。これらは実際にNPSにも事業成長にも悪影響を与えていた例ですが、それまで放置されていた課題でも、ひとたび関係者にその重要性が納得されると意外なほど解決へ動き始めます。納得度を高めるためにも売上とNPS両面から課題を優先度付けする事が必要となります。さらに、 部署内で対応できる課題については、 売上に直結するめぼしいものは優先的に対応され多くは解決済みです。残るのは、ユーザ体験上は課題ではあるけども売り上げへの影響は軽微な課題が主です。もしNPSだけを目標として進めてしまった場合、これら手を付けやすいが売上に寄与しない課題に対する改善活動となってしまいがちです。結果として改善活動のための活動となってしまい、単に現場の負荷を上げただけに終わってしまうことも懸念されます。その意味でも優先度づけにおいて売上の観点は考慮すべきです。
今の枠組みのまま、効果を上げる
組織構造、業務プロセス、評価システム に起因する課題、と言うととても手に負えない課題に思えるかもしれません。実際、NPSの教科書的な本を読むと組織や評価の理想形、ベストプラクティスなどが出てきますし、チャールズシュワブの事例ように組織や制度をドラスティックに変えているケースが目立ちます。ただ、日本企業において現実的はそれらの枠組みを変える事はまず無理ですし、必ずしも必要でもありません。手段ではなくゴールから考えれば、NPSと売上に関してユーザが大事だと思う事、それが改善できればいいのです。枠組み自体を変えなくても、ちょっと動き方を変えたり、優先度をかえたりといった工夫で長年の課題も解決してしまいます。その課題の重要性が分からないし、自分に関係ないと思うから放置していただけで、多くの場合現場は解決能力を持っています。そしてこのためにはやはり NPSと売上 の両方に影響する課題から始めることがポイントとなります。
まずはユーザを知るところから
この進め方にはNPSだけではなくユーザの購買行動の理解も必要となりますが、モデリカではこれにはUX改善の方法論を応用します。ユーザなぜ推奨/批判になったのか、なぜ購買する/しないのか、の因果関係をユーザごとのギャップ分析から構造化します。ユーザにとって大事な事(NPS・売上両面で)を明らかにした上で、それらに影響している要因に対する施策案を考えていく流れです。UXとCXの手法をミックスして、ユーザの意思決定プロセス、態度形成プロセスを明らかにします。これはCX活動でよく作成されるカスタマージャーニーマップとは似て非なるものです。多くジャーニーはただ出来事・課題を並べただけおわります。それらの要素と結果の因果関係の分析がされていません。体験上の課題は複合的な要素で構成されているため、表面的な課題に対応するだけではモグラ叩きで終わってしまいますし、結局どの課題が推奨/批判の態度や購買行動にどのような影響を与えているか分からないため、施策の優先度もつけることができません。
手段に頼らず、原理・原則からたどり着いた方法
「購買行動を含めて分析」というと「NPSの改善なんだからNPSの事だけやって」と言われることがあります。ただ様々な企業でCX活動をご支援してきた経験からすると、単純に教科書的な進め方をするだけではCX活動はビジネス成果に結びつきません。あらゆる成功事例にはそれが機能するための前提条件があります。当然、企業ごとの前提条件に応じて進め方は変える必要があります。特に日本企業においては枠組み自体をかえる ドラスティックな変革は難しいため 、効果の高いレバレッジポイントを狙いすまして活動する必要があります。これまでご説明したNPSと売り上げの両面から捉えるために、UXの技法を取り入れ、顧客の意思決定プロセスと態度形成プロセスから改善方針および施策の優先度をつける、という進め方は数々のプロジェクトの中で試行錯誤の末到達した進め方であり、「売上が直結しないタイプ」の企業にとって最も効率的かつ成果の上がる方法であると確信しています。